足をひきづりながら、まるで自衛隊の”ほふく訓練“のように必死に横断歩道を渡ろうとする青年がいた。
信号は点滅していてそろそろ赤になろうとしたので思い余って彼に近づき声をかけると、
「足を骨折しています」
と痛そうに訴える。
横断歩道の近くでティッシュを配っていた若い女性も駆け寄ってくれて二人で青年の両脇を抱えて急いで横断歩道を渡り切る。
そこにもう一人名札をぶら下げたスーツ姿の女性も近づいてくれて、一緒に彼の話しを聞いてくれた。
「人に殴られたり、蹴られたりして骨が折れている。警察にも連絡したけどお金がないから病院にも行けないと、警察官に言われた。
だれもぼくのことなんて、助けてくれない。助けてくれないんだー!」と苛立ちながら声を荒げる。
身につけているジャケットや髪の毛には草や土らしきものがついていて、Gパンは破けていた。
年齢は20代前半ぐらいだろうか…。
体臭がするわけでもなく路上生活をしていたようにも見えない。
半泣きのような様子でだれも助けてくれなかったと、ただただ訴えてくる。
私たちから警察に連絡するからこの状態で移動するのは難しいよ。と話すけれど彼は興奮気味で私たちの話しを一向に聞こうとはしない。
スーツ姿の女性が警察に電話すると、
「もう警察に言っても無駄だから電話なんてしないで!」と彼女の電話する手を振り払うような動作をし、足を引きづりながら駅の改札のほうへと歩き去ってしまった。
彼はどうしたかったのか…
本当のことかはいまだにわからない。
お金がほしかったのか。
それとも
ティッシュを配っていた女性が別れ際に言った
「だれかと話したかったのでしょうか」
ということだったのか。
彼にしかわからないし、
もしかしたら彼自身もわからずにしていたのかもしれない。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって
世界中に不安や絶望、心配の連鎖がひろがっている。
でも一方では、協力や希望、生き方の見直しもひろがっている。
私たち一人一人にできることは限られているかもしれないけれど、私たちが協力し合い、助け合い、支え合い、励まし合えば、きっと不安や絶望も安心や希望にかわるはず。
真実はどうであれ足をひきづりだれも助けてくれないんだー。と叫ぶ彼に近づいた二人の女性たちに出会えたことは、私の喜びであり希望となった。
0コメント